では、『アンクル・トムの小屋』の中で、『風と共に去りぬ』はどう描かれているだろうか。しかし、これは土台無理な設問である。『風と共に去りぬ』が発表された1936年には、ストウ夫人は疾うに亡くなっていた。むしろストウ夫人は、「なるほど、こちらがこの大きな戦争を始めた小さなご婦人ですか」と面会のとき、感嘆の言葉をあげたリンカーン大統領と同時代人なのである。南軍の名将リーは、連邦からの脱退という大義には必ずしも賛成でなく、奴隷制自体にも疑問を投げかけた。一方、北軍の勇将シャーマンは、南部の状況(経済封鎖など)に同情的であり、奴隷制に反対していなかった。それでも二人は参戦した。南北戦争は複雑な動きを見せるのである。熾烈な戦いは、アメリカ建国史上最大の62万人もの戦死者を出した。ちなみに第二次世界大戦のアメリカ人死者は29万人、ベトナム戦争では5万人だった。アメリカの南北戦争(1861~1865)に関連した作品で、「聖書のように読まれ、聖書のように売れた」と喧伝される作品が、少なくとも2作ある。ストウ夫人の『アンクル・トムの小屋』とマーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』である。『風と共に去りぬ』を日本文学史に例えれば、島崎藤村の『夜明け前』に時代的には似ている。藤村は、幕末維新を描いたこの作品を昭和4(1929)年になって書き始めた。同様にミッチェルも『風と共に去りぬ』を南北戦争が終わって七十余年立ってから出版した。だからミッチェルの南北戦争に関する記述は、時を経ているうえ、多くの資料に裏打ちされているからしっかりしている。最新号から過去の国基研だよりまで、すべてをPDF閲覧できます。※閲覧には会員ログインする必要がございます。ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)やBLM(黒人の命は大切だ)に反するというレッテルを張るのは簡単なことである。上のことは、『風と共に去りぬ』に散見される複雑系のごくわずかな例である。COPYRIGHT © 2012 Japan Institute for National Fundamentalsしたがって、南北戦争を背景とする小説『風と共に去りぬ』は一筋縄ではいかない構造を持つことになる。ヒロイン、スカーレットの出自からしてそうだ。母親の実家は、裕福で貴族的なフランス系移民の家柄であるのに対して、タラ農園を経営する父親はアイルランドからの逃亡者であり、しかも、少数派のカトリック系という設定になっている。当時のアイルランド出身者は、白人でありながら、時に、黒人奴隷より下等とみなされ、二等市民として扱われることがあった。そしてタラ農園自体が、もとはといえば、先住のインディアン、チェロキー部族の土地を奪ったものであった。白人至上主義を唱える秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)も小説に出てくる。最愛の人アシュリーはそのメンバーとなったが、スカーレットは、KKKそのものに反対だった。また、南部においても政府と州の対立があった。ジョージア州知事は州兵の南軍への参加を拒否し続け、敗北が決定的になる最後の最後になってやっと派兵を承諾する。奴隷たちは屋敷奴隷と畑奴隷に分けられ、畑奴隷は差別された。南北戦争後の“再建時代”に、スカーレットが屋敷奴隷だった黒人に綿花畑での手伝いを頼むと、「いやです。わしのプライドが許さねえ」と激しく拒否される場面がある。スカーレットにレディとしての作法を教え、母親代わりの存在だったマミーは屋敷奴隷である。岩波文庫版『風と共に去りぬ』の訳者で、米黒人女性初のノーベル賞作家トニ・モリスンとも親交があったアメリカ文学者、荒このみ氏によれば、「アメリカ文学史において『風と共に去りぬ』が研究対象として論じられることはほとんどない」(文庫第5巻解説)という。管見によれば、日本も同様で、『アンクル・トムの小屋』は少年少女文学全集や絵本ですまし、『風と共に去りぬ』は映画、しかも、副主人公レット・バトラー役のクラーク・ゲイブルの存在に圧倒されて、小説そのものを読んだことにしているのではないだろうか。ミッチェルは『風と共に去りぬ』の中で、戦後アトランタに進駐してきたWASP(ワスプ)の夫人たちをこう非難している。「『アンクル・トムの小屋』を聖書に次ぐ啓示本だとみなすヤンキーの女たちは、逃亡奴隷を追いかけるために南部人が飼っているというブラッドハウンド(犬)のことを聞きたがった。……奴隷の妾についても興味を示し、スカーレットは、なんといやらしく下品な好奇心だろうと思った」(荒このみ訳)。高名な文芸批評家エドマンド・ウイルソンは、『愛国の血糊』と題する南北戦争とアメリカ人の関わり方を探った大著(訳書でA5判2段組600ページ)をものしているが、ストウ夫人について冒頭の1章で詳しく分析している。ストウ夫人の小説はたしかに売れたが、南北戦争後になるとぱたりと売れ行きが落ち、1900年の初めには、その内容を理解している若者はほとんどいなくなり、「『アンクル・トム』という作品は、……単なるプロパガンダ小説であった、と合衆国ではしばしば考えられている」(中村紘一訳)という。ウイルソンは、「しかし、大人になってから、『アンクル・トム』に触れると、はっと息をのむような経験をすることになる。想像していたよりもはるかに大きな影響を与える作品である」(同)と評価している。 映画「風と共に去りぬ」の舞台となった国はどこ?(ポルトガル、フランス、オーストリア、アメリカ) のクイズの答えは()から選択してください。 クイズプラスは、多くの問題を記載しているクイズブロ … [amazonjs asin="4004304423" locale="JP" title="「風と共に去りぬ」のアメリカ―南部と人種問題 (岩波新書)"] 「風と共に去りぬ」からアメリカの黒人差別について考察した一冊。 以前から読みたいと思って、購入したものの、そのまま放ったらかしにしていた本です。 米動画配信サービス「HBO Max」は24日、奴隷制の描写などが問題視されている映画「風と共に去りぬ」について、南北戦争で奴隷制を守ろうとした南部を美化し、「奴隷制の恐ろしさを否定している」などと解説した約4分半の動画を本編開始前に付けた上で、配信を再開した。 アメリカから世界へと広がりを見せる「Black Lives Matter(黒人の命の問題だ)」運動を受けて、動画配信サービスのHBO Maxが映画『風と共に去りぬ』のストリーミング配信を中止、コンテンツから削除 … 『風と共に去りぬ』のほかにも、次々と番組のキャンセルや配信中止が起きている。パラマウント・ネットワークは、リアリティ番組「cops」の放送を取りやめた。現在33シーズン目を迎える長寿番組だが、番組内で繰り返される人種差別的表現が過去にも問題になっている。 å¼ããã¤ãã³ã®éãå°å¦æ ¡ã§ã¯å¤ä¼ã¿ãç縮ï¼ã8æã®æããä¸ããã¹ã¯ãã¤ãã¦ç»æ ¡ããªããã°ãªãã¾ããâ¦ãã¤ãã³â¦ 長澤まさみのドレス姿ずらり!『プリンセス編』でもダー子が美しいMovie Walkerスタッフが、週末に観てほしい映像作品を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週も、映画ライター陣が”いまこそ観たい”オススメ映画…多く報道されているとおり、5月25日にミネソタ州ミネアポリス近郊で、アフリカ系アメリカ人男性ジョージ・フロイトが警察官に拘束されたのちに死亡した事件は…夏と言えば…海!サメ!トンデモな進化を遂げてきた、サメ映画の傑作たち女優・長澤まさみの“光と闇”…『MOTHER マザー』の狂気的な母親役が危険すぎる!歴代ボンド、どの作品が高評価?批評家が選ぶ「007」シリーズの“フレッシュ”10選ブラッド・ピット、故人の名前入りパーカーで密かに抗議デモに参加!真夏を彩った美人コスプレイヤー20連発!“冬コミ中止”でもコスプレ熱は冷めやらずCopyright © MOVIE WALKER Co., Ltd. All Rights Reserved.5月25日にミネアポリス近郊で、白人警察官に執拗に首を押さえつけられ亡くなったアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドの人種差別的な死を受け、「#Bl…5月27日から、ワーナーグループのストリーミング・サービス、HBO Maxが始まった。始まったといっても、実際には27日未明にすでにサービスを行ってい…Black Lives Matterとコロナ禍がアメリカにもたらしているものとは?声をあげるセレブリティや企業の動向まとめ米ミネソタ州で偽20ドル札を使った容疑で白人警察官に捉えられ、「息ができない」と叫びながらも執拗に首を押さえつけられた状態で亡くなったアフリカ系アメリ…【閲覧注意】最恐の心霊スポット「犬鳴トンネル」へ潜入…『犬鳴村』は実在した<写真36点>【今週の☆☆☆】アメリカ奴隷解放運動の真実『ハリエット』や豪華すぎるゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』など、週末観るならこの4本!HBO Maxがスタート!DCコミック作品、ハリー・ポッター、ジブリ作品が揃い踏み 『風と共に去りぬ』が発表された1936年には、ストウ夫人は疾うに亡くなっていた。 むしろストウ夫人は、「なるほど、こちらがこの大きな戦争を始めた小さなご婦人ですか」と面会のとき、感嘆の言葉をあげたリンカーン大統領と同時代人なのである。